人気が欲しい人生だった

POPEYE des KAKITAI

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メンズサロンで銀座。マダムはまさか僕が髭を脱毛するとは思うまい その2

髭脱毛体験コースを受けるにあたって、髭が生える周期、なぜ髭が濃くなっていくのかをニコルンは懇々と説いた。モニターに拡大した肌を映し出す顕微鏡のようなもので、まずは自分の白衣にそれを当て、繊維が見えることを説明する。

胸元の生地を拡大したのに少しドキッとしたのだが、悟られなかっただろうか。もし気づかれていたなら、女性に免疫がないから仕方ないと思って寛大な心で許してほしいと思った。

次に顕微鏡を僕の目の下辺りに当て、細かい毛が生えているのを見せる。そして機械をそわすように下っていき、髭の濃い頰の辺りに。

力強く根付いた黒々とした毛が見えた。肌も心なしかかさついているように感じた。

ニコルンによると、髭剃りをするたびに肌を削ることになり、髭が目立つようになるのだという。僕は恐ろしくなった。肌を切りつけ徐々に髭を濃くしているとは。

僕のそんな心情を読み取ってか、ニコルンは「まだ間に合う」と、流暢かつ形式ばった口調で脱毛をすることによるメリットを、そのくりくりと大きな目で訴えかけてきた。

このまま髭を剃り続ける未来にすっかりと怖気付き、まだ施術前だったが、断るという選択肢は消えていた。

「めちゃくちゃ喋るの達者ですねえ」と心の奥から称賛を送ると、あれほどスルスルと喋っていたのが嘘かのようにニコルンは何も返してこなかった。アドリブよわっ、そう心の中でツッコミを入れるのと同時に、自分がマニュアルに心動かされてたことに気づき笑ってしまった。

 

二人きり個室へと移動して、マッサージを受けるような台でほとんどいっぱいになってしまうような場所で、ニコルンに言われるまま僕は仰向けでその台の上に乗った。

そして、後で比較するからと、その状態で写真を撮られた。完全にイメージなのだが、寝ている僕とは別の自分がそれを横で見て笑っていた。男らしさ、を求める奈良の親戚たちに見られたら、滑稽だと縁を切られてしまうような気がした。

ニコルンは写真を撮り終えると、「ライトがまぶしいと思うから」と黒い目隠しを僕に付け、「抜く前に言いますね〜」と脱毛準備に取り掛かった。そして「チクっとします、いきますね〜」とパチっと機会が音を鳴らした。

注射の針を刺すような感じだろうか、事前にビビり倒していたため、全く痛くなかった。以前、女の子に「抜かして〜」とピンセットで髭を抜かれた時と同じ刺激だった。注射と同じと例えたが、病院ではもっと痛く感じた気がする。

痛みの程度は同じなのに。そうか、病院の先生はおじさんだったから痛かったのかもしれない。かわいい女の子だったら、モテない男特有のアドレナリンのような物質が分泌されるのだ、きっと。

ニコルンは趣味を最初に聞き、痛みを紛らわそうとしてくれたので、僕は映画と答えてカルチャに精通していると印象付けようとした。ここ二週間で観た『七つの会議』『グリーンブック』『女王陛下のお気に入り』『シティハンター新宿プライベートアイ』、どの手札を出そう。

洋画も観るんですよ僕、ええ。お洒落でしょ?、と思ってもらうなら洋画のどちらか。

映画はもっぱらシネコンでやってる大衆的な邦画ですわあ、ゲヘヘヘ、と取っつきやすい男になるなら、『七つの会議』を選べばいいと脳内会議が行われる。

そして、選んだのは『女王陛下のお気に入り』。モテようとしたわけだ。でも、結果は惨敗。ニコルンには全く響かず、会話は終了した。

他にもマッチングアプリの話なんかもしたが、大した盛り上がりもなく、髭脱毛は終わった。もはや150本きちんと焼いてもらったかも分からない。ニコルンの良心を信じるのみだった。

 

そのあと、僕は契約書にサインをして25回払いのコースに申し込んでいた。ほとんど意識はなかったように思う。

とにかく、このまま髭剃りをしていくのが怖かった。ニコルンから銀座店のオーナーに交代して、契約書の重要事項が読み上げられた。

オーナーはニコルンとは打って変わって小さな目をつけまつげとアイメイクで大きくした気の強そうな女性だった。

「これから痛さに耐えてもらって頑張りましょうね。お肌のケアはバッチリさせていただきますので」と、安心感のある言葉をかけてくれた。

 

今週の土曜日、早速1回目の本格的な脱毛の予約を入れている。スッキリとした綺麗な男の子に僕はなるんだ。