人気が欲しい人生だった

POPEYE des KAKITAI

いつかPOPEYEで執筆を

メンズサロンで銀座。マダムはまさか僕が髭の脱毛をするとは思うまい

日曜日は脱毛サロンを訪れた。長年僕を悩ませる髭と決別するため、150本1,000円キャンペーンを利用してだ。

1,000円という金額が安いのか高いのか、150本という本数が多いのか少ないのか、全く未知の世界。でも、いつかは開けると思っていた扉をついに開けるときが来たのだった。

大手サロンなので、都内あちらこちらに店舗があり、新宿や渋谷、好きな所で髭を抜いてもらうことが可能なのだ。僕は迷うことなく銀座店を選んだ。

銀座でメンズサロンに行く。なんと甘美な響きだろうか。銀座で服を買う、銀座で映画を観る、銀座ですき焼きを食べる。銀座、と枕に付くだけで大人になった気がするのに、銀座でヒゲを脱毛するなんてもう、言葉にならないドキドキがある。

日比谷駅で降り、晴海通りを東銀座の方へと歩く。不二家の看板を見るたび、いつか来ようと思うが、まだ行けていない。銀座の不二家でイチゴのショートケーキを食べるのも叶えたい夢のひとつかもしれない。ヒカルの碁で和田が師匠の娘からねだられていたのを読んだときから、憧れている。

そんなことをぼんやりと思いながら、さらに歩くと銀座三越に着いた。この裏の筋にメンズサロンがある。はじめてということを悟られないよう、僕はいかに慣れていますよ、という顔を作り、ビルへと入った。館内図の前でカバンの中を整理していたマダムも、僕がメンズサロンに初めて行くなんて、まさか気付くまい。「あら、今日も美容に抜かりがないのね。おほほほほ」といったような顔をしていた。

5階にあるお店の中に入ると、清潔感のある、なんだかエロい香りがした。色気を匂いにしたらこんな感じだろうか、そんな匂いだった。受付のお姉さんに名前を告げると、「ソファにおかけになってお待ちください」と言い残し、奥へとはけていった。ソファに軽く腰を下ろし、背もたれから背中を浮かした状態で僕は待った。もう強がる必要はないのだ。ここからはあくまでも初めての右も左も分からない男の子でいればいい。そう。初体験のとき、経験豊富な女の子に身を委ねるように。そんなことを考えながら、僕はお姉さんが帰ってくるのを待った。

そうしていると、さっきとは違うお姉さんが下敷きとアンケートを手に持ち、僕の元へと近付いてきた。「こちら簡単にで結構なので、ご記入いただいてもよろしいでしょうか?」。今日僕の髭を担当してくれるというお姉さんは、そう優しく言った。顔は藤田ニコルに似ていたので、ここからはニコルンと呼ぼう。

ニコルンが持って来たアンケートには、何歳くらいから髭が濃くなってきたと思うか、などの質問事項が並んでいる。僕は記憶を探り、過去の引き出しを開く。20歳を過ぎたときだったはずだ。髭が生えている自分が許せず、顔から血を流し始めたのは。そして、全ての問いに答えると、簡易的な応接室のようなスペースでニコルンのカウンセリングを受けることになったのだった。

 

続く